木から落ちた小さな青柿「王と宮女」承前:「赤い袖先」中巻・第二部

原作小説

何かと理由をつけて、世継ぎの問題を避けてきたサン。ここに来て貞純(チョンスン)大妃が、側室を選ぶ揀択(カンテク)の命令を下す。

側室選び

蛙が鳴いて黄色いマクワウリの花が咲く季節。サンは27歳(1778年)となるが、いまだ世継ぎに恵まれない。

貞純(チョンスン)大妃・金(キム)氏により、揀択(カンテク)の命が出される。サンは、先王・英祖(ヨンジョ)の喪中などを理由に先延ばしを試みるが、大妃側についた臣下らに押し切られた形で揀択を受け入れる。

揀択(カンテク):王妃や世子嬪、また側室などとして、王室に入る女性を選ぶこと

体面もあり、大妃さまには文句を言えないサンも、ドギムに対しては不満をこぼす。「私だったら、異なる性格の側室を3人選ぶ」と言うドギムにサンは内心苛立つ。

サン
サン

ふと思い出すものがひとりいるのだが…

側室を迎えたらいいとかなんとか、顔色一つ変えずに戯言を言うのだ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンは、本人の前でドギムのことを言っているにもかかわらず、ドギムは自分のこととは気づいていない。

揀択の準備が進むなか、サンは費用を節約するよう命じる。さらに、内命婦(ネミョンブ)の決まりも変更。士大夫(サデブ)の家柄の側室と、宮人出身の側室の待遇に差をつけるようにした。

とはいえ、今回の揀択は出来レース。都承旨(トスンジ)のホン・ドンノ(グギョン)の妹が選ばれることが最初から決まっていた。

チョンヨン郡主
チョンソン郡主
恵嬪宮

初揀択の様子を見てくるようサンに命じられたドギム。久しぶりに、清衍(チョンヨン)郡主(クンジュ)、淸璿(チョンソン)郡主(クンジュ)そして恵嬪宮となった恵嬪(ヘビン)洪(ホン)氏に会う。

5番目の候補が、ホン・ナクチュンの娘、丙戌(ひのえいぬ)生まれで13歳というドンノ(グギョン)の妹だった。実年齢より幼く見える彼女に、大妃自らさまざまな質問を投げかけた。(他の候補者には質問なし)

ドギムが感じた以上に、郡主ふたりの意見は辛辣。世継ぎを期待される側室として向かないのでは、とドギムの前で語る。さらに、世継ぎを授かるため、正室である孝懿(ヒョイ)王后が名医による治療を受ける話を都承旨(トスンジ)のホン・ドンノ(グギョン)が退けたことも話題になる。

ホン・ドンノ(グギョン)がその地位を背景に、増長していると噂される一場面

また、郡主ふたりにとって祖父となる英祖と、宮人から側室となった祖母・義烈宮(ウィヨルグン)の話に。

即位したばかりの1724年。英祖は、大妃・仁元(イヌォン)王后に仕える宮女に一目惚れをする。(名目上の)母に仕える宮女であるため、承恩を与えることもできず、彼女の方も遠慮した。しかし、英祖の恋煩いは激しくなる一方。とうとう、仁元(イヌォン)王后が宮女に側室となるよう勧めたのだった。

「40年もの間連れ添い、その死後、王妃に次ぐ待遇で義烈という諡号まで与えた」という話を聞きながら、ドギムは「義烈宮は幸せだったのか」「先王が義烈宮に借りを作ったという、借りは何のことなのか」と物思いに耽る。

郡主ふたりと話し込んで、大殿に戻るのが遅くなったドギムをサンが探しにくる。

サン
サン

自分のものを奪われるのは最悪だと前から言っていたはずなのに

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンにとって妹となる郡主ふたり。そこから、妹たち、清衍郡主の夫・光恩(クァンウン)副尉と淸璿郡主の夫・興恩(フンウン)副尉の話に。味方になってくれる人物を探していたサンにとって、よかれと思って付き合ってみれば、興恩副尉は遊び人で期待外れだったことをドギムに語る。

ここでドギムは、以前聞いた「サンが不倫をしている」「女遊びをしている」という噂は間違いでは?と思うように。

側室

初揀択、再揀択、最終揀択の三揀択は、何事もなく(予定通りに)進んだ。ホン・ドンノ(グギョン)の妹が選ばれ、その待遇は前例のないものだった。世継ぎをもうける前から「嬪(ビン)」を与えられ、その嬪号は最高の意味を保つ「元」から「元嬪(ウォンビン)」に決まった。

ドラマ「イ・サン」でも「赤い袖先」でも、最初から元嬪(ウォンビン)だったので、疑問に思いもしなかった部分。かなりの特別待遇であったことを原作小説で知りました。

また、嘉礼(カレ)=婚礼儀式も(サンの節約の言葉とは裏腹に)盛大に行われた。

ホン・ドンノ(グギョン)がその地位を背景に、増長していると噂される一場面

婚礼の翌日、孝懿(ヒョイ)王后が不愉快さを表明。側室・元嬪からの朝見礼(チョンギョンレ)を断って、受けなかった。(王妃が挨拶を受けないと、大妃にも、恵嬪にも挨拶に伺えない)そのまま3日が過ぎた。

その頃、ドギムはサンの苛立ちからくる理不尽な命令に従う日々が続いていた。その様子を聞いたギョンヒは「男は、関心を引くために好きな女をいじめる」と言う。ドギムは、自分らしく生きようとささやかな抵抗=サンの嫌がる小説を読むことを試みる。

王后と側室の対立も6日目。サンは、ドギムに胸の内を明かす。

サン
サン

王妃はどうしてああも頑固なのか、わからぬ

王妃は徳を備えた人だ

私が王妃に対してなんの思いもないように、王妃も私に対して心がない

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

それに対して、ドギムは王妃の行動はやきもちではないと答える。正室の立場を無視されたかのように、側室が最高位の元嬪(ウォンビン)を与えられ、さらに内医院(ネイウォン)や臣下からのご機嫌伺いを受ける事態に腹を立てているのだと話す。

そして、サンが王妃の味方となり慰めることで、正室が側室を迎えられると説く。話はさらにやきもちと嫉妬の違いへ。サンは、自身が少し不愉快な時があると躊躇いがちに話す。(またドギムに反省文を書かせるサン)

その後、サンは内官のイ・ユンムクに命じて、中宮殿=王妃の居所へ行く準備をする。

対立から7日目。ようやく孝懿(ヒョイ)王后が元嬪(ウォンビン)の挨拶を受ける。ただし、ひと通りの儀式が終わるまで部屋に入れようとしなかった。(このことに対して、サンは王妃の味方をする)

合宮(ハプクン)

元嬪との合宮=床入りが決まる。面倒だとこぼすサン。

主のいない大殿(サンは元嬪の居所へ向かうため)の見張り番のドギム。ソ尚宮に仮眠をとると話し、廊下で壁を背にうとうとしようとするが…身体は疲れているのに、思うのはサンの事ばかり。

ようやく眠りに落ちた頃、ソ尚宮に起こされる。サンが元嬪のところから戻ってきた、と言う。床入りにしては早過ぎる帰りだった。提調尚宮たちの会話から、形だけの床入りで何もしないまま戻ってきたとわかる。

ドラマでは、戻ってきたサンが眠るドギムのそばで過ごす場面があります。

王室の亀裂

「(日頃は温厚な)王妃が元嬪に接するときだけ人が変わる」という噂から始まり、恵嬪が世継ぎを産むよう元嬪の肩をもつようになり、大妃は一歩引いて様子見をするという事態になる。サンは女性同士の争いに関わらないように努めた。

気まずい事態が続くなか、サンはドギムに、王妃と元嬪のところに挨拶伺いをするよう命じる(双方の様子を探るため)王妃は直接ドギムの挨拶を受けようとしなかった。その一方で、元嬪はドギムを喜んで迎えた。

15日続けて元嬪の居所=淑昌殿を訪ね続けるドギム。話し相手もおらず、寂しい思いをしていた元嬪はドギムの来訪を心待ちにする。そこで兄=ドンノ(グギョン)の役に立ちたかったので、自らの意思で入宮を決めたと語る。

そして「大妃様も王様も怖い」「特に王妃様は怖い」「恵嬪=恵慶宮様からの世継ぎのプレッシャー」など、本音を漏らしてしまう。さらに床入りの日は何度かあったものの、初夜を過ごしたことがないことまで打ち明けてしまう。

夜遅くまで読書をするサン。彼はドギムに元嬪の様子を尋ねる。兄=ドンノ(グギョン)の傍若無人な様子や、元嬪の打ち明け話を口にすることもできず「何もない」と答える。そして「淑昌殿=元嬪の居所で休むようにすれば…」と元嬪への気遣いを勧める。

うっかり、サンと元嬪の初夜がまだであることを口にしたドギム。平謝りする彼女への怒りを鎮め、サンは「ホン・ドンノ(グギョン)の顔を立てて、合宮の日を守っているものの、元嬪が幼すぎて世継ぎをもうけるのは難しい」と本心を打ち明ける。

サン
サン

よく考えると、お前は不思議なほど女たちと仲良くしているな。母上はもちろん、大妃様にチョンヨン、チョンソンでも足りず、今は元嬪まで……

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

孝懿(ヒョイ)王后

元嬪が風邪で寝込んで3日。ドギムは、淑昌殿へ挨拶に伺うこともできず、形ばかりの挨拶が続いていた中宮殿=王妃の居所へ。初めて屋敷へ入ることを許される。

「大妃様も恵慶宮様もドギムを気に入っていること」「王様もドギムを気に入っている様子」など、ドギムについて知っていることを話し始める。そしてお互いに質問をしあう”遊び”を提案する。

*この時の様子で「孝懿王后は9歳で入宮。揀択後、病で床に伏し、1年後に嘉礼を挙げたこと」「病は、天然痘のようなもので、顔に痕が残っていること」などが読者に分かる

ドギムの質問から、孝懿王后にとって大切なものは「持っているものすべて」それは「王、大妃、恵慶宮との関係・信頼」であること。そして、元嬪が側室となったことで「大切なもの」を失った気持ちでいるということが分かる。

次の質問では、孝懿王后は「これまで、宮女が承恩を受けること」を恐れていたこと、「今では、士大夫(サデブ)の家柄の娘が世継ぎを産むこと」を恐れていると答える。

つまり、今の孝懿王后の態度は自分の立場を守る行動であり、そのことをドギムを通じて元嬪とホン・ドンノ(グギョン)に警告したいという意思表示を言葉にする。

*孝懿王后はこの時点で、ドギムはドンノ(グギョン)側の人間であり、警戒すべき人物と考えている

サンの気持ち

難しい立場で王室の人々と接する気苦労と、サンからの過度な仕事の要求に体調を崩すドギム。しかし、激務をこなすサンの姿にドギムも仕事を続けるが…

サン
サン

お前の姿を見たくなくて、度を越した仕事を任せた

政務に没頭しているときも、突然お前を思い出す

お前は私のことなど眼中に置かず…

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンの「お前が好きだ」の裏返しのような言葉を真正面から受け止めることになる。ドギムはそのまま意識を失う。

布団の中で目を覚ましたドギム。ソ尚宮から、慌てたサンがドギムを膝に寝かせて看病したこと、医女を呼んだこと、さらに王の食事から貴重な「駝酪(タラク)粥」を下賜されたことなどを聞く。

十分な休養と栄養で体調が回復したドギムは仕事に戻る。倒れる前のサンの言葉に揺れる気持ちのまま顔を合わせないよう、暗い書庫の整理をする。そこにサンがやって来る。本棚越しに会話を続けるふたり。

(画像は原作小説の内容とは無関係です)

近づくことも、遠ざかることも出来ず、心を言葉にすることも、秘めることも出来ず、微妙な時間が過ぎていく。

サン
サン

私が来いと言ったら来るのか?

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

ドギム
ドギム

はい、そうします

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サン
サン

自ら来たい気持ちはあるのか?

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

ドギム
ドギム

もしかしたら……でも、それ以上に……ただ、こちらにいたい気持ちが大きいです

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

そばに行く、という意味以上の会話が続く。

サン
サン

一介の宮女なんぞに……私も情けない

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンはサンで、自分の気持ちに気づきながら蓋をしようとし、ドギムはドギムで、これ以上近づいてしまえば後戻りできないと踏みとどまろうとする。読者からみると、焦ったいくらいの二人です。

世継ぎ(王子)もおらず側室を迎えたばかりの国王サン、さらには孝懿王后と元嬪の間で微妙な立場にいる宮女ドギム。気持ちだけでは簡単に答えを出すことができないのでしょうね。

前の話「王と宮女」駆け引き

次の話「王と宮女」破局①

ポスター・画像出典元:MBC番組公式サイト

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