破局①「王と宮女」承前:「赤い袖先」中巻・第二部

原作小説

9章の始まりは3月。蚕(かいこ)を大事にする儀式は、国は違っても想像できる気がします。

親蚕礼(チンジャムネ)

季節は3月。貞純(チョンスン)大妃を長とした「親蚕礼(チンジャムネ)」が開かれる。ドギムは、王(サン)の代理で出席するソ尚宮のお供をする形で出席が叶う。

女性だけで行う祭祀という華やかさの裏で、外命婦たちの間では激しく冷ややかな心理戦が続く。一方の内命婦でも険悪な雰囲気が漂う。孝懿(ヒョイ)王后の大礼服に匹敵するほどの華やかな衣装に身を包んだ元嬪(ウォンビン)。孝懿王后が、側室に対する過度な待遇を不快に感じているのは遠目にも伝わる。

式の準備を執り行なったのは、実際にはホン・ドンノ(グギョン)孝懿王后への対抗意識が垣間見える

続く「採桑の儀」では、ギョンヒの仕立てた鞠衣(クギ)を纏った孝懿王后が姿を見せると感嘆の声があがる。その後、孝懿王后の顔色が変わる。元嬪の助蚕衣も王后と同じ色だった。

元嬪自身は式での厚遇も助蚕衣もただされるがまま、言われるままだったが、孝懿王后の不快さには気づいて小さくなっている

表面上、親蚕礼は無事に終わったかに見えた。が…祭祀のあとで中宮殿で開かれた宴には元嬪の出席は叶わなかった(孝懿王后が元嬪の挨拶を拒んだため)帰ることもできず、その存在を無視されたかのような時間を過ごすことになった元嬪の姿があった。

ドラマでは親蚕礼(チンジャムネ)は、貞純(チョンスン)王后が”娘”和緩(ファワン)翁主を叱る場面の舞台となります。原作小説には、和緩翁主は登場しないのです。

ヨンヒ

同じ部屋を使うヨンヒの挙動が怪しいことに気づくドギム。身だしなみに気を使い、早朝から部屋を出て遅い時間に帰ることも増えた。しかも妙に機嫌がよい。ドギムが尋ねても嘘をつくヨンヒ。

ドギムの心に疑念が湧くが、彼女自身、孝懿(ヒョイ)王后と元嬪(ウォンビン)の間で気を遣い、サンからホン・ドンノ(グギョン)の様子を見るように言われ、貞純(チョンスン)大妃には筆写を頼まれ…で、それ以上、ヨンヒを追求することもできないまま過ぎていった。

元嬪(ウォンビン)①

元々、身体が丈夫ではない元嬪。親蚕礼(チンジャムネ)以降、ますます病気がちになる。ドギムは元嬪の話し相手になり、彼女を励ます。

ここでのやり取りで「赤子の井戸」の話になる。この井戸の水をすくって飲むと子どもに恵まれる、という有名な井戸。元嬪は「その井戸の水を飲めば私も懐妊できるのか?」と、世継ぎの重圧を口にする。

宮中の諸事情を知るドギムにとって、素直すぎて思ったことを口にしてしまう元嬪と、世間を知らない彼女の乳母が気にかかる。

奎章閣(キュジャンガク)

奎章閣*

*1776年 第22代国王・正祖によって昌徳宮の宙合楼**一帯に創設される

**原作小説「赤い袖先」には宙合楼が描かれている

若い人材との交流を楽しむサン。奎章閣で過ごす時間を好む。

酔っ払い、ご機嫌で大殿に戻ってきたサンは、ドギムを見つけると「今度は、ドンノ(グギョン)も呼び、歌わせる」と話す。

史実でも、ホン・ドンノ(グギョン)は詩歌の才能もあり、歌うのも上手だったという話がある。また原作小説に描かれるように、度を越した振る舞いの逸話がいくつも残っている。

酔いにまかせて絵を描くサン。(ドギムはそばで墨を磨る)この日描いたのは芭蕉。ドギムは、サンの知らない一面を見る。

ドラマ「赤い袖先」では、悲しみを紛らわすためにお酒を飲んだサンが絵(というか…)を描いて、カン・テホやソ尚宮に贈るという場面があります。

「イ・サン」では、梅の花を描いていたような(イ・ソジンさんが描いたそうです)

さらに、官僚らが使う流行りの字体(雑文体)への不満も漏らす。また小説への嫌悪も示し、ドギムに「景樊堂(キョンボンダン)=許蘭雪軒(ホナンソロン)の文集」を渡す。

史実でも、サンは書筆へのこだわりがあり、娯楽小説や派手な字体を嫌ったとある。

そして「なぜ宮女を遠ざけようとするのか」をドギムに語る。それは亡き父・景慕宮(キョンモグン)=思悼(サド)世子にまつわる話だった。宮女を娶り、その宮女を自らの手で斬るという「病」に触れる。

サン
サン

どのみち記憶から消える夜なら……

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンは、ドギムを抱くように体を近づけ……そのまま眠ってしまった。

元嬪(ウォンビン)②

元気を取り戻した元嬪(ウォンビン)。努めて陽気に振る舞った。しかし再び病で床に臥すことに。

病気がちの元嬪を気にかけるサン。ドギムの幼少時代を尋ねる。

(ここでドギムは麻疹に罹ったことがない、とわかる)

サン
サン

お前のような者のほうが問題だ。大丈夫だと過信していたら、一気に逝ってしまうのだ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

それから5日。5月7日の丑の刻に元嬪が亡くなる。元嬪には、仁淑(インスク)という諡号とお墓が与えられた。元嬪が亡くなってから幽霊の噂が出はじめる。中宮殿に仕える宮女たちが失踪する事件が続き、幽霊の仕業だとか、元嬪の怨霊だとか言い、宮女たちは怖がる。

また、元嬪(ウォンビン)が亡くなったことで、孝懿(ヒョイ)王后に向けられる目は厳しくなり、恵慶宮=恵嬪(ヘビン)も孝懿王后に冷淡になる。加えて「孝懿王后が元嬪に毒を飲ませた」という噂まで広がるように。

ある日、ホン・ドンノ(グギョン)は完豊君(ワンプングン)を亡くなった元嬪の養子とする。

*完豊君は、サンの異母弟・恩彦君(ウノングン)の息子。つまり、サンからみると甥に相当。

史実でも、洪国栄(ホン・グギョン)は、李湛(イ・ダム)を完豊君として元嬪の養子に迎えている。のちの常渓君(サンゲグン) また完豊は、完山(ワンサン)と豊山(プンサン)洪氏を合わせてつけたと言われる。

人々は、王に次ぐ権力を持つホン・ドンノ(グギョン)と縁を結ぼうとするなかで、サンの微妙な態度を知るドギムは冷静にその様子を眺める。この頃、ドンノ(グギョン)は形ばかりの辞職を願い出たものの(サンも了承)その不遜な態度は目に余るものが続いていた。

ヨンヒの恋

以前から、うすうすヨンヒの行動を怪しんでいたドギム。宮中の出来事に疎い彼女でも、ヨンヒが恋をしていることに気がついていた。

ドギム
ドギム

密通は本当に殺されるわ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

ヨンヒと二人きりの時に、ドギムは厳罰対象(宮女=恋愛は御法度)となる別監とのやり取りをやめさせようとキツく言う。

(この時の会話で、ヨンヒの相手は「婚礼後妻を亡くした別監」であることが分かる)

ヨンヒは、ドギムにだけは味方してほしいと涙ぐむ。が、名目上とはいえ宮女は王の女。自由な恋愛など望めるわけもなく、また見つかった時には厳罰対象であるため、ドギムは友・ヨンヒを守ることが優先だった。

ドギム
ドギム

払わなければならない代償はあなたの命よ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

やめるというヨンヒの言葉に半信半疑のドギム。見守らなければと思っていた矢先に事件が立て続けに起こり、ドギムはヨンヒの恋に関われなくなっていった。

貞純(チョンスン)大妃との時間

筆写の仕事を受けながら、大妃自らドギムに誤字や内容の理解に関して鋭い指摘をする。女性が学問をすることが容易ではなかったこの時代でも、大妃という立場でさまざまな本に触れる貞純(チョンスン)王后。「ゆくゆくは、学問を身につけた女人がその才能を活かす日も来る」と語る。

ドギムの目からみて、大妃と国王サンの関係は互いへの情が感じられるものだった。その一方で、ふたりの間に緊張感が漂うこともあった。

大妃はドギムに父や兄のことを語る。娘が学問をすることに対してよい顔をしなかった父。父親に見つからないよう本を揃えてくれた兄(=金亀州/キムギジュは、サンによって流刑に処されていた)を思い出す。

同じように兄のいるドギムが妹のようだと言う大妃に驚くドギム。

貞純大妃
貞純大妃

私はそなたをもっと近くに置きたいのだ

王様が早く決心してくれたらと思う

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

貞純(チョンスン)大妃の真意を計りかね、ドギムは当たり障りのない返答をする。

貞純大妃
貞純大妃

本でも読んでくれ。年をとったからか目がよく見えない

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

(というものの、貞純大妃はサンよりわずか7歳上の祖母。まだ目が見えないという世代ではなかった)

ドラマを観た時、そして原作小説を読んだ時、そして投稿のため読み直している今。貞純大妃の言う「ドギムを近くに置きたい」という意味が変わってきたように感じます。

最初は、大妃に仕える宮女としてドギムを望んでいるのかと思ったのですが、読み直してみると、サンの側室として彼女を迎えることで”王室の家族”として近くにいることを望む発言のように感じてきました。

前の話:「王と宮女」木から落ちた小さな青柿

次の話:「王と宮女」破局②

ポスター・画像出典元:MBC番組公式サイト

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