王と宮女①「王と宮女」承前:「赤い袖先」中巻・第二部

原作小説

十二章「王と宮女」は長いので、2部に分けてご紹介します。

御真(オジン)

7月。昌徳宮(チャンドックン)一帯の補修を終え、一時的に居を移していた昌慶宮(チャンギョングン)から戻ったサンの御真(=肖像画)図写が始まる。

東宮時代にもサンの御真を描いた画師と軽口をたたきながら、サンは身なりを整えた。じっとしている間に浮かぶさまざまな思いの中で、彼の心に最後まで残ったのは「なぜ、あの日ドギムが泣いていたのか」という問いだった。

ホン・ドンノ(グギョン)の死を知り、命は守るという約束を果たせたのかも分からなくなり、ドギムをひと目見ようと訪れた和嬪(ファビン)のいる慶寿宮殿。そこでサンが見たのは、月夜の闇でひとり泣くドギムの姿だった。

自然と表情が曇るサンに、画師は具合でも悪いのではないかと声をかける。

ドギムとの別れを思い出す。「(王である)自分のことを慕ったことはなく、今後もない」と厳しく拒絶した取るに足らない宮女。幼いころ、勢いで承恩を口にして拒まれた時とは違い、自分とドギムの距離を改めて知ることになった夜だった。

惨めさと怒りからドギムを宮殿から追い出したものの、心休まる日など1日もなかった。他の男の胸に抱かれるのではとまで思うこともあり、彼女を恋しく思う気持ちをサンは認めざるを得なかった

そのため、貞純(チョンスン)大妃(テビ)が、理由をつけてドギムを宮殿に呼び戻すと話したとき祖母の申し出を断れなかったことにした。ドギムの姿にホッとして、心のどこかで以前のような関係に戻れることも期待していた。しかし彼女は違った。

それでもドギムが懐かしく、彼女の姿を見るために慶寿宮殿を訪ねた。なのにドギムは、目の前で和嬪の世話を甲斐甲斐しく焼き、「彼女が自分のものではない」ということを見せつけられたのだった。

失ってみて、ドギムの大切さに気づいた。

そのうえ、彼女が軍服を着た男から腕ぬきを贈られる場面を見てしまった。相手の男を殺したくさえなった。しかし、ドギムに背を向けられるのが怖くて、何も言えずに立ち去るしかなかった。

その後、闇の中で泣くドギムを見た。「なぜ、彼女は泣いていたのだろう」答えの出ない問いが、サンの心の中にぐるぐると浮かんでくるのだった。

サンの様子に、画師は悩みごとがあるのではと声をかける。

柔和な表情で答えたものの、サンは途方に暮れていた。彼にとってドギムは難しく、何が正解なのか分からなかった。軍兵だけでなく、大妃にも和嬪にも嫉妬する自分に気がついた。初めての出会いから続く、ドギムとの数々の思い出がサンの心を大きく占めた。

下描きを終えたという画師の言葉に、広げた自分の顔はどこか奇妙だった。似ているのに…憂鬱な表情だった。御真にまで写し出される悩みは、ただ一つ。ドギムだった。

サン
サン

私の憂いを癒してくれる者は天下にただひとりだけだが、決してお前ではないな

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンは心の中の恋心をなかったことにした。

ドラマでは、ドギムがホン・ドンノ(グギョン)の死を知って涙する場面からの展開は早いのですが、原作小説ではここからも大小の波があります

大妃殿にて

朝の挨拶に伺えなかった貞純大妃のもとを訪れたサン。そこには、母・恵慶(ヘギョン)宮と孝懿(ヒョイ)王妃もいた。困った表情の2人を前に、大妃は「恵慶宮の心配ごと」と話を持ち出した。

恵慶宮
恵慶宮

和嬪をあのままにしておくのはどうかと

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

懐妊の知らせから、すでに1年7ヶ月が過ぎていた。サン自身、あまりにも早い慶事に驚き、困惑したのも事実だった。正直にいえば、実感が湧かなかった。この日は(いつまでも生まれない世継ぎを心配して)事情を聞くために”信頼おける内人”を呼んだと言う言葉にサンは不機嫌になった。

そこに現れたのはドギムだった。以前よりも痩せ、汚れのついた服でやってきた彼女の姿を見て、サンの心が痛んだ。

やさしい口調でドギムに話しかけた大妃が、「和嬪が隠していることを告げるよう」厳しく問いかける。恵慶宮もドギムに「知っていることを話すよう」優しい口調で促した。2人の言葉にいっそう身を縮め、青くなるドギムの様子にサンの気持ちも沈んでいった。

それでも「和嬪本人の口ではなく、自分のような取るに足らない者が話すことで正しく伝わらない」「和嬪様の秘密を話せというのは道理に反する」と答えるドギム。大妃たちの命を聞かない自分を罰するように申し出る。

貞純大妃の話から「和嬪が実家から連れてきた3人(=本房内人)だけを側に置いている」と知るサン。(ドギムのような)至光宮人を同行させないことは、「単なる噂」だと答えるドギム。目の前にいる彼女の様子は、サンがよく知る姿そのものだった。

大妃から、あくまでも口をつぐむドギムに対してどうすれば良いかと尋ねられたサンは「罪を問われるべき」だと答え、初めてドギムの気持ちを理解する。どんなに彼女を思う気持ちがあっても、サンは王として判断し行動する。平凡な男として女人を愛することはできない。

ドギムは「女人として」サンを慕うことはない、と言った。彼女が望んでいるのは、サンが唯一与えることのできる「王の愛」ではないと気づいたのだった。

結局、孝懿王妃の「出産の遅れも、ドギムの不敬も自分の不徳」と言う言葉で、その場は収まった。大妃はドギムに「この場の出来事を和嬪に知られぬよう」念を押し、彼女を解放した。

史実でも、和嬪が懐妊したとみられ産室庁(サンシルチョン)を設置したものの、産まれることがなかったと伝えられています。

慶寿宮殿にて

和嬪のもとへ戻ったドギムに、ミユクがあれこれと尋ねてくるが、ドギムは知らぬふりをした。その態度に腹を立てたミユクは「全部調べてやる」と言い放つ。

もう2ヶ月以上、和嬪からの子どもじみた意地悪が続いていた。墨のついたチョゴリを着替える間もなく大妃殿へ呼ばれ、大妃様をはじめ4人の前で和嬪の秘密を話すように問い詰められたのだった。

本心では、これまでのことを話してしまいたかったドギムだが、「和嬪が言い逃れをすれば、主を貶めようとした罪」に問われ、反対に「愚行が明らかになれば、主にしっかり仕えなかった罪」に問われるため、ドギムには選択の余地がなかった。

あの場で耳にしたサンの「(ドギムは)罪を問われるべき」という言葉に、サンの恋心とはその程度だったとドギムは感じていた。

そんな思いのドギムにヤンスンが、中宮殿(=孝懿王妃のもと)から薬剤をもらってくるようにと伝える。到底、ひとりでは運べない量の薬剤を背にドギムは”憎まれている”ことをあらためて感じる。

*ミユクもヤンスンも和嬪が実家から連れてきた宮女(本房内人) 

ドギムは顔見知りの医女ナムギに、湯薬と脈の関係などを尋ねる。ナムギは声を落として、最初に和嬪の脈を診たときの話を伝える。「医女3人のうち、1人だけが様子を見た方がよいと主張したが、2人が懐妊と言ったため”懐妊”ということになったこと」そして、後の診察でも「男性の御医は、脈拍だけ診たと思われること」などを語る。

礼を述べて立ち去ろうとするドギムに、孝懿王妃が声をかける。力のある雑仕女を来させるように伝えたのに、彼女が薬剤を運ぼうとする様子から「慶寿宮殿でのドギムの立場」に気づく。

孝懿王妃
孝懿王妃

誰かが私の役目の代わりをしないければならないなら、むしろそなたの方がましだ

今は苦労するだろうが、耐えなさい。近いうちに報われるだろうから

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

自分の難しい立場を背中に感じながら、ドギムは慶寿宮殿と帰っていった。

翌日、和嬪に大妃殿でのことを問われるドギム(その様子をミユクとヤンスンが側で見ている)幸いク尚宮の機転で、大妃の真意を探るような会話まではならずに済んだ。和嬪は、話題を変えドギムに人手不足の洗踏房の仕事を命じる。

*ク尚宮やドギムは至光内人(宮女)の地位なので、本来、洗踏房の仕事を命じられることはない

素直に応じるドギムに、和嬪は蔵の片付け、薬剤の整理を済ませてから洗濯は夜に行うようにと次々に命じる。(ミユクが和嬪に、ドギムがホン・ドンノや元嬪側の人物であるなどと吹聴していたため、和嬪の意地悪が酷くなっていった)

悲しい思いの中で、ドギムはサンの側で過ごした日々を懐かしく感じていた。

祖母の思い出

その頃、サンも災害への対処などで気持ちが沈んでいた。悩みが深い時には、机にうつ伏せてじっとする様子は祖母しか知らないサンの姿だった。

サン
サン

祖母の義烈宮は、春紫苑(はるじおん)の花のようなひとだった

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

亡き祖母との時間を思い出すサン。ある日、義烈宮は、サンが怒りをひとりで鎮めようとすることを気遣い「心配ごとを打ち明ける相手」を持つようにと話した。幼いサンには「女人をそばに置く」という意味を見出せずにいた。そんなサンに対して、義烈宮は優しく言葉を続ける。

義烈宮
義烈宮

心を打ち明けられるひとりの女人さえいればいいのです

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

ドラマでは、このセリフ「心を打ち明けられるひとりの女人さえいればいい」は祖父である英祖(ヨンジョ)が釣りをしながらサンに語っています。

かつて、心配ごとを打ち明けられる人が一人いたことを思い出す。それがホン・ドンノ(グギョン)だった。肩の荷を分けられる唯一の寵臣だった。しかし、ドンノに対してもサンは己の全てを見せてはいなかった。

そして、別の一人を思い出す。計算のうえ、側においていたハズだったのに、うっかり隠していた一面をさらけ出してしまう女人。心の中から彼女を追い払おうとしたサンの口から出た言葉は…

サン
サン

寝る前にちょっと慶寿宮殿に寄ろう

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

彼女を呼ぶ口実を考えながら慶寿宮殿に着いたサンの耳に聞こえてきたのは、何かを叩く音に混じる水の音だった。ソ尚宮は洗濯の音だと言うが、即位まもなく逆賊に侵入されたことのあるサンは音の出どころを確かめずにはいられなかった。

裏庭の井戸のそばに、高くつまれた洗濯物と共に彼女の姿があった。手も耳も頬も寒さと冷たさで真っ赤になり、目頭が赤くなっている姿を見た瞬間、サンは怒りに包まれた。

庭まで出てきた和嬪を見るなり

サン
サン

ソン家のドギムがどうしてあんなつまらないことをしておるのか!

大殿で私に仕え、大妃様と恵慶宮様の格別の推挙として入ってきた宮人にもかかわらず、なにゆえあのような身分の低い仕事をさせているのかと訊いておるのだ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

”私のもの”だったドギムがぼろぼろになっている様子に、思わず声が大きくなる。和嬪が青くなり震えていた。慌ててソ尚宮がサンをなだめる。

思い直したサンは、尚宮に和嬪を室内へ連れて行くよう命じると「様子を見に来ただけだ」と来た道を戻ることになった。ドギムへの思いを抑えようとして、サンはギュッと目と閉じた。

ドギムへの告発

側室が王様に叱られたという噂はあっという間に広まった。しかし、なぜ王が宮女の肩を持ったのか答えられる者は(一部の例外を除き)いなかった。サンが大声を出してから、和嬪の意地悪はなくなったが、その反面、まるでドギムは”いない者”のように扱われるようになった。

雑用がなくなったドギムは、冬の寒さの中、慶寿宮殿の外でする用をこなすようになった。寒さ対策に、兄からもらった腕ぬきをつけようとしたが、どこにしまったのかわからなくなっていた。

久しぶりに兄シクと食事をしたドギム。キョロキョロ辺りを見る妹を訝しむシク。「以前、兄さんと会った帰りに王様に出会ったから」という言葉にシクも「誰かに見られている気がする」と話す。ドギムの心に暗雲が広がるようだった。

言葉にならない不安を抱えて慶寿宮殿に戻ったドギムを待っていたのは、和嬪だけではなかった。その隣に、監察尚宮がいたのだ。

ドギムへの告発を受けたという監察尚宮は、ある本を見せ「ドギムの物なのか」と問う。それは、風呂敷に丁寧に包んで隠していたハズの『女範(ヨボン)』暎嬪(ヨンビン)の印がある義烈宮直筆の書。幼い頃、先王・英祖(ヨンジョ)から贈られたものだが、その時の話をしたとしても信じてもらえそうにない…

ドギムが『女範(ヨボン)』を下賜されたのは、序章

「赤い袖先」上巻:序章~運命へのカウントダウン

案の定、和嬪は「ドギムが王室の物を盗み出し、貸本屋に売り払おうとしていたのでは」と責めるように問いかけた。「先王様がくださった」と答えるドギムに、和嬪は「とんでもない嘘をつく」と信じられない様子。当時の出来事を記憶をたどりながら語るドギムの言葉を遮るように「もうよい」と手を振る。

続けて、監察尚宮は「密通の疑い」を口にする。思いがけない言葉にドギムは驚くばかり。しかも「密通の疑い」でドギムの部屋を捜索して『女範』を見つけたという。これまでも私物の検査を受けたことはあったが、なぜ今回『女範』が見つかり、問題になったのか…釈然としないドギムは監察官らによって(観察府の代わりに)納屋に閉じ込められることになった。

その頃、貞純大妃はサンに『女範』を見せながら、「慶寿宮殿で”ある宮女”が、密通と窃盗の罪で告発された」ことを話す。サンの心は大きく揺れた。続けて、大妃は「処分は自分が行うので、許可をしてほしい」と申し出る。

密通については、サンも気になっており、これまで内官を通じて相手の男を探っていたのだが”御営庁所属”としか分かっていなかったのだ。そのうえ、彼女の部屋から祖母の遺品が見つかったという。確かに、これまで書庫の整理をしてきた彼女なら盗む機会はあった。しかし、彼女が盗んだとは到底思えなかった。

サンも貞純大妃も「先王・英祖から贈られた」という彼女の言い訳に戸惑っていた。

極刑を免れない罪を犯した彼女をかばってはならない、かわいそうに思ってはいけないとサンは自分の思いを必死に抑えた。そんなサンに向かって大妃は

貞純大妃
貞純大妃

王様、心が望むものをお間違いではありませんか?

望みがあるのなら、それを表に出して、押しつけてもいいということですよ

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンの心を大きく揺さぶり

貞純大妃
貞純大妃

明日、王様も来てください。巳(み)の刻、中宮殿に

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

と断ることのできない申し出をした。

真実①

一晩閉じ込められたドギムは、義禁府(ウィグンブ)ではなく中宮殿の前庭に連れて行かれた。早く取り調べを始めてほしい…と思うくらいの時間が経ち、審問のため”高貴な人々”が姿を見せた。ドギムの前に、貞純大妃、恵慶宮、孝懿王妃そして和嬪が並ぶ。

ドラマでは告発の描かれ方が異なり、様子も違います。

最初に口を開いたのは、貞純大妃。「王室の物に手を出す罪」について問われ、ドギムは自らの潔白を主張するしかできなかった。そこに、サンが到着する。王として、貞純大妃と同じ上座につく。

貞純大妃はドギムに「生前面識のなかった義烈宮の遺品を受け取った経緯」を話すように促す。ドギムは当時の記憶を思い出しながら「文字が上手になりたい」と言った幼い宮女見習いの自分に、先王様がソ尚宮を通じて下賜してくださったことを語る。

しかし、その場に呼ばれたソ尚宮は義烈宮の出棺をドギムと見送ったことは覚えていても、書を渡されたことは記憶から抜けていた。

ソ尚宮が覚えていなければ、ドギムの言葉を証明する人は誰もいない。頼みの綱が切れたように感じるドギムだった。

その後、貞純大妃はドギムに「先王の書庫に入ったことがあるか」「書庫の整理を任された時に貴重な書物を目にする機会があったのか」など「本を盗み出す機会があったのでは?」という質問を続ける。ドギムは「決して盗むようなことはしていない」としか答えようがなかった。

ためらいがちに恵慶宮が口を開く。貞純大妃に許しを得て、当時の出来事をドギムに確かめる。ドギムは当時の記憶を手繰り寄せるように、慎重に言葉を選び、英祖(ヨンジョ)と交わした会話を語る。

ドギム
ドギム

どうしてひとりでいらっしゃるのかお訊きしましたが、側室の諡号を考えているとおっしゃいました。王とその子供たちのために大きなことをしたから当然だと……

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

サンは、この言葉の意味がわかる貞純大妃と恵慶宮と順に目を合わせた。そしてサンは「ドギムが語った話は真実である」と言葉にし、恵慶宮も「あの内人(=ドギム)が嘘をついているように思えない」と語る。

貞純大妃に促され、恵慶宮は当時のことを話し始めた。

「出棺の前に、先王が幼い宮女に会ったと話していたこと」

「その子が、亡き和平翁主様に似ているという話」

「先王から義烈宮の書を持っているか尋ねられたこと」

「『女範』があり、暎嬪宮殿に返したこと」

「先王が、文字を学びたがっている宮女にお手本として『女範』を見せるつもりだと話していたこと」

恵慶宮
恵慶宮

まさか、その宮女がドギムだったとは知りませんでしたが

「赤い袖先」中 カン・ミガン著

恵慶宮の話を聞き、貞純大妃は「『女範』を盗み出した」告発は取り下げるを得ないと皆の前で口にした。

ドラマでは、『女範』を盗み出した疑いは別の場面で描かれます。提調(チェジョ)尚宮チョ氏が、自分の駒として使いたかったドギムが思い通りにならないとわかり、彼女を処罰しようとしたのでした。

やっと!1つの容疑が晴れました。次の記事では「密通疑惑」の真実とは?からご紹介します。

前の話:「王と宮女」亀裂

次の話:「王と宮女」王と宮女②

ポスター・画像出典元:MBC番組公式サイト

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